今回はブレンダン・フレイザーがアカデミー賞主演男優賞を受賞した映画「ザ・ホエール」を紹介していきます。
久しぶりに帰ってきたと思ったら体重270キロオーバーの巨漢を演じたことで話題になった本作。男の暮らす部屋の中で展開する物語は最後には壮絶な展開が待っていました。
個人的には今年最高の映画だと思うほど良作でした!今回はあらすじやみどころ、冒頭から登場するエッセイの意味などを紹介していきます。それではいきましょー。
※ネタバレを含みます。ご注意ください。
あらすじ
かつてパートナーを失った過去を持つチャーリーは、そのトラウマから食のコントロールが効かなくなり、体重が270㎏まで増加してしまう。
歩くこともままならないチャーリーは、普段はソファの上で生活し、仕事はオンラインで姿を隠しながら学生のエッセイを診るインストラクターをしていた。
ある時、友人で看護師のリズが家を訪れ、彼の健康状態を診る。血圧が238/134という驚異の数字をたたき出し、心臓にも大きな負担がかかっており、このままだと1週間で死んでしまうという。
それでも頑なに病院に行くことを拒むチャーリー。代わりにかつて自分が捨てた娘との関係を取り戻すことを望む。
娘を家に呼び話をするも、過去のこともあり、中々心を開いてくれない娘のエリー。
ある日、エリーはチャーリーに学校の課題であるエッセイを代わりに書くように依頼する。
彼は自分の人生に大きな影響を与えたあるエッセイを思い出していた。
刻一刻と時間が過ぎていく中、彼は自分の過去を見つめなおし始める。
果たして彼はエリーとの関係を修復することができるのか。彼を待ち受ける結末とは。。。
ブレンダン・フレイザーを主演に贈る迫真の室内劇
「ハムナプトラ」シリーズ主演俳優が久々に帰ってきました!
健康やセクハラ被害などで一線を退いていたブレンダン・フレイザー。本作では体重が270kgもある超巨漢を演じています。
もちろん特殊メイクですが、顔の面影はかつてのハンサム俳優を思い出させますね。
見た目だけでなく、演技も一級品。ラストで娘に語り掛けるシーンはグッときました。
今作の演技が評価され、彼は2023年度アカデミー賞主演男優賞を受賞しました。
「エブエブ」が旋風を起こす今年度のアカデミーでしたが、彼の演技を見てしまえば、主演男優賞は文句なしですね。
そして彼は少しずつ映画に復帰していくようで、今後も数本の出演が決まっています。彼の今後の活躍がさらに楽しみになってきました。
男の部屋の中でのみ展開する物語
今作の特徴は、全ての話がチャーリーの部屋の中で展開するところです。
彼は勿論外には出ることはできません。友人や家族が彼の部屋を訪れる形で物語が進んでいきます。
チャーリーは学校でエッセイの講師を務めていますが、授業はオンラインで彼は顔出しをせずに実施しています。もちろんソファの上から動くことはありません。
登場してくるのは、チャーリーの友人のリズ、娘のエリー、元妻のメアリー、彼を救おうとする宣教師のトーマスが主です。
大きな展開はなくとも、1週間という限られた時間の中で、少ないながらも彼を大切に思う人達との関りを通して、チャーリーは諦めていた人生を見つめなおします。
チャーリーの過去
リズは彼の唯一と言ってもいい理解者で、彼の身を心から案じています。それは彼女の兄がチャーリーのパートナーだったということが理由でした。彼はゲイであり、娘を捨ててまで愛したパートナーと駆け落ちしました。しかし、後にパートナーは死亡してしまいます。これがきっかけで彼は暴食に走り、今の体重になってしまいます。
それでも娘のエリーのことは大切に思っており、妻と別れた後も彼女のことを気にかけていました。
稼いだ金は全て娘にあげるという行動も、彼なりの罪滅ぼしだったのでしょう。
彼にとって唯一のエリーとの思い出は浜辺でのひとときでした。
砂浜に立つチャーリー、砂遊びをするエリー、それを見つめる妻メアリー。
何もないけど静かで幸せな時間が彼の頭に頻繁によぎるのでした。
そんな幸せな時間をもう一度過ごしたいという思いを胸にエリーと話をしますが、中々うまくいきません。
重要な意味を持つエッセイ
1週間という短い時間の中で、エリーとの関係修復を図るチャーリー。
その中で重要になってくるのがエッセイでした。チャーリーが講師を務めていたのがエッセイの講座というだけでなく、エリーが落第ギリギリだった講義もエッセイだったのです。
めんどくさいと突っぱねるエリーに対して、書く才能があると語り掛けるチャーリー。
彼の思いとは反対に、良くない方向を選んでいくエリー。
しかし、弱っていく父の姿を間近で見るうち、少しずつ心境に変化が出始めるようです。
そして週末、自身の命が終わることを悟り、その時を静かに待っているチャーリー。
そこに怒り心頭で現れたエリー。チャーリーに代筆を頼んだエッセイの授業が落第したと彼を罵倒します。
そこに書かれていたエッセイこそ、物語冒頭から登場する、チャーリーの心の支えとなっているエッセイでした。実はこれはエリーがかつて書いた「白鯨」の感想のエッセイであり、そのできの良さからチャーリーはこのエッセイをずっと大切にしてきたのです。
映画のタイトル「ザ・ホエール」とは、彼の見た目だけでなく、この「白鯨」のエッセイからも来ていることが分かります。
弱っていくチャーリーと衝撃のラスト
自分のエッセイを大切にしていたことを知るエリー。チャーリーは最後の力を振り絞り、彼女に語り掛けます。過去の過ちへの後悔、彼女への思いを全てぶちまけます。
迫真のセリフは、エリーだけでなく観ている我々にも刺さってきます。まさに鬼気迫る表情で自分の全てを出しながらエリーに思いをぶつけていきます。
そして最後の時は、エリーのエッセイを聞きながら逝きたいとエリーに頼みます。
心が動かされたエリーは拒みながらも父の最期を見届ける決意をし、自分のエッセイを読み上げます。
残された力を全て振り絞り、娘の元へ歩み寄るチャーリー。それに呼応するかのように彼に近づいていくエリー。
2人が向き合ったその時、チャーリーの体がフッと浮き上がり、彼の命が終わったことが示唆されました。
最後には、思い出の砂浜でのひとときが彼の頭を埋め尽くし、幸せな人生に幕を閉じたのでした。
このラストシーンは本当に引き込まれてしまいました。
かつてのトラウマやあやまちを乗り越え、娘の未来に全てを託した彼の姿は、見た目云々ではなく、カッコ良かったです。
チャーリーが伝えたいこと
彼は大学でエッセイの講師をしています。
そこでは彼はいわゆる綺麗事を並べ、うわべだけの言葉を教えてきました。
しかしエリーや周りの人間たちとの関係や自身のおかれた境遇を通じ、そうした思いに変化が出てきました。
死を間近に控えたチャーリーは最後の講義として、クソみたいな文章はいらない、正直な文章を送ってこい、と学生に命じます。これがきっかけで彼は仕事をクビになるのですが、それでも彼は学生に伝えます。
今後は型にはまった文章を作ることになるだろうが、重要なのは、何を感じ、何を表現するか。正直な思いを書くこと。
それと同時に彼は隠していた姿を晒し、最後には使っていたPCをぶん投げて講義を終えます。
正直な文章を書くというのは本当に難しいことですよね。出る杭は打たれる、ではないけど何でも正直に話したり書いたりすれば、大抵の場合、諍いを起こしてしまいます。そんなことはどうでもいい。本当に優れたエッセイはそんなところからは生まれないと彼は言います。
それを娘から教わったこと、その文章をいつまでも大切に持っていたこと、本当に彼が娘を大切に思っていたことが分かります。
おわりに
今回は映画「ザ・ホエール」を紹介しました。主演のブレンダン・フレイザーが好きだったこともあり、観たかった作品ではあったのですが、ここまで素晴らしい作品だとは正直思っていませんでした。
ラストシーンでは映画館の周囲のお客さんも泣いている様子でした。
正直自分も結構キてましたけど。。。
派手さはあまりありませんが、まごうことなき傑作だと思います。ぜひ観てみてください!それでは。
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