今回は2023年アカデミー賞作品賞にもノミネートされている「イニシェリン島の精霊」を紹介します。
予告から中々ぶっ飛んだ内容な雰囲気満載の本作。
終始予測不可能な展開に目が離せません。
今回はそんな本作のあらすじ、結末、そして諸々謎に満ちた展開の考察をしていきたいと思います。
それではいきましょー。
※ネタバレを含みます。ご注意ください。
あらすじ
アイルランドの小さな孤島、イニシェリン島。
島で暮らすうだつの上がらない男、パードリックはいつものように友人のコルムと共にパブに出かけようとしていた。
コルムの家に着くも、パブに行こうとしないコルム。パードリックは仕方なくひとりで向かうことに。
しばらくすると、コルムがパブに現れる。
パードリックはコルムに話しかけるも、コルムは彼の言うことをまるで無視するのだった。
なぜ無視されるのかわからないパードリックは彼に理由を尋ねる。
するとコルムは、「お前が嫌いになった」というばかり。
理由もわからず何かの悪ふざけかと考えたパードリックだったが、あまりにも頑ななその態度に気圧されてしまう。
さすがに黙っていられないパードリック。コルムに詰め寄るも、彼は「今度話しかけたら自分の指を切り落とす」と言う始末。
手に負えないパードリック。コルムがなぜ無視をするのか、狂気じみた脅しまでしてくる彼の真意を突き止めることができるのか。
2人のたどる結末とは。。。
平穏な島に訪れた突然の狂気
物語の舞台、イニシェリン島はアイルランドの小さな島。
本土では内戦が繰り広げられているのが遠くからうかがえます。そんな紛争とは無縁の平和な住民たち。そして旧友であったパードリックとコルムに訪れる突然の絶縁。
あまりに急すぎる出来事はパードリックだけでなく島の住民たちも困惑している様子でした。
理由が全く明かされない謎めいた展開に観ているこちら側も頭に?が浮かんでしまいます。
話しかけたら自分の指を切り落とすというめちゃくちゃなことを言い出すコルム。
コルムを演じるブレンダン・グリーソンの迫真の表情はなぜか説得力があり、ただのハッタリではなさそうです。
始めは困惑するパードリックでしたが、次第にコルムに対して苛立ちを覚えます。
身に覚えのないのに急に嫌いと言われたら誰でもそうなりますよね。
そして彼はついにコルムに話しかけることに。
すると翌日、彼の家の戸に何か小さい固いものが投げつけられる音がするのでした。
あとは分かるな?
過去が明かされない
この話において、最も謎なのはやはりなぜコルムがそこまでしてパードリックを避けるのか。
2人が昔から仲が良く、毎日パブに通うほどの関係だったのは会話からわかります。
しかし具体的な描写はなく、仲たがいに至るまでの過程は一切描かれていません。
観ている人にとっては困惑の一言。
このあたりの想像を掻き立ててくるのが非常に上手いですよね。
自分ならあっさり話しかけちゃいそう。
ただ、パードリックがつまらない男だった、ということは会話でも作中の彼の姿を見てもなんとなくわかります。
馬の糞の話を2時間もしたらしいですし。。。
コリン・ファレルの平凡な男の演技、というのも面白いですね。
コルムがパードリックを避ける理由
コルムはパードリックよりも随分年上。このまま年を取り、死んでしまうと、何も残すことができないという焦りや虚無感のような感情を覚え、趣味であった音楽を究めようと考えたのがパードリックを無視するに至った原因のようです。
パードリックを無視するようになってからは、同じ音楽を趣味にするもの達で演奏したり、パードリック以外の者には普通に接しています。あくまでもパードリックだけを排除し、自分の納得いく人生を送りたかったのでしょうか。
いきなりそんなことされたらパードリックもたまったもんじゃないでしょうけどね。
本土では当時内戦が行われており、かつて友だった者同士が敵として対峙する本作のストーリーを指し示す描写があります。
暗にこうした内戦、戦争への皮肉を込めているのでしょうか。
2人を取り巻く環境の変化
パードリックには一緒に暮らす妹、シボーンがいました。
彼女は読書が好きで、結婚もせずに兄と2人暮らし。
島での閉鎖的な環境に嫌気がさしながらも行くあてもなく今の生活を続けています。
そんな彼女も2人の関係の変化に影響を受けます。
始めはコルムの態度に対し、兄に同調しコルムを軽蔑します。
しかしいつまでも変化のない兄や島の住民たちと接し、さらに本土に働き口がみつかったこともあり、島を離れる決意をするのです。
何もせずに埋もれていくことへの恐怖や焦りはコルムに似た感情を持っていたのかもしれません。
友を失っただけでなく、唯一の家族である妹さえ離れていってしまう。取り残されたパードリックは半ば自暴自棄になり、コルムと最終決戦(?)に臨みます。
2つの死とは?
作中度々登場する見るからにヤバイ雰囲気の老婆。マコーミックさんと呼ばれるこの人は、作中でポイントごとに出現し、他の登場人物に不吉な予言を告げていきます。
特に重要なのは、パードリックの前に現れ、まもなく2つの死がおとずれる、と告げるところ。
この2つの死とは何を意味しているのか、作中で誰が死んでしまうのか考えながら観ていました。
結局これはパードリックの友人で島随一の愚か者ドミニクと、パードリックの最愛のペットのロバ、ジェニーのことでしょう。
マコーミックさんは死神、もとい精霊と呼ぶにふさわしい存在で、人の死を見届ける重要な役どころを担っています。
パードリックの妹、シボーンに対しても手招きをしていましたが、彼女はマコーミックとは反対方向、島から出ていく決断をし、生き生きと暮らしている様子が後の手紙で明らかになります。
一方島に残ったパードリックは離れるに離れられない状態、つまりは生きながらにして死亡しているような状態になったとも取れますね。
そしてそれはコルムも同様。
本当の意味での2つの死とは、パードリックとコルムの2人のことかもしれません。
タイトルの意味
映画のタイトル「イニシェリン島の精霊」は、コルムが作曲した曲のタイトル。
彼はパードリックに「お前の葬式で弾くことにならないと良いが」とクッソ煽り散らかしています^^
この「精霊」は先にも挙げたマコーミックがカギを握ります。というよりもはや彼女自身が精霊そのものな感じ。
アイルランドでは精霊は近づいて来る死を予知する妖精と信じられています。その姿形は長髪の女性でマントを羽織っている、まさにマコーミックの姿。
ただし、精霊は死を予知しているだけ。死をもたらしたり、何か危害を加えてくるようなことはありません。無害と言えば無害ですね。
パードリックとコルムの諍いの中でコルムの指を誤飲して死亡したロバのジェニー。
本土における内戦でも争いとは直接関係のない者たちが犠牲になっている、という皮肉でしょうか。
死は常にすぐそばにあり、この土地では精霊が不敵な笑みを浮かべながらその様子をただ見ているだけなのですね。
おわりに
今回は映画「イニシェリン島の精霊」を紹介しました。
自分の指を切り落としてまで絶縁するという狂気。かつて親友だった人間と決別することになる平凡な男の物語です。
終始暗い雰囲気はありつつも、ジョークもありニヤッとしてしまう会話も多いです。
観る人を選ぶ映画ではありそうですが、ハマれば好きな人はかなり好き、な映画だと思います。
わたしは完全にそっちでしたね。
興味のある人はぜひ観てみてください!それでは!
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